深いトラウマを負っていると、その同じ辛さを一緒に思い返せる集団の中でだけ、快適だと感じられることがあります。同じように虐待を受けた人といるときだけ、急にイキイキしてきたりするのは、その一例です。
日本だと、陸軍や海軍に属していた人たちが戦後も集まり続け、戦中歌われた歌を一緒に歌ったり、武勇伝を共有したりした例は、それにあたるでしょう。ただ、そうすると「共通の掟に従えば」という条件下に自らを置くことになります。そして「あなたとわたしは、違う考えを持ち、違う感じ方をする」という個人差を否定することにならざるを得ません。
個人差を理解するには、脳に限って言えば、前頭葉が正常に機能している必要があります。程度の差を問わず、トラウマを負った人が経験する「過去が現在に侵入する」感覚は、時間感覚を失ったともいえます。脳内の左右にある背外側前頭前皮質が作動しなくなると、人は時間の感覚を失います。
トラウマを負った後、その人の周りの世界は、それまでとは異なる神経系で経験されることが、判っています。あのときのあれが、今も変えようもなく続いている中を生きているということは、即ち、新しい経験を自分の人生に統合できないことを意味します。
明日に続きます。
初出:【 清 ら か に 】 2017/10/16
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