月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder)という病気があります。
今年、クライアントさんに家系図を作って、自分の後ろをリアルに感じることを提案しました。これは、一見関係なく見える、不眠・不登校・精神病・ギャンブル依存などの問題解決も促す、非常に大きな第一歩です。
家系図を、一家系だけ(わたしでいうなら「吉野」だけ)のものと思う方がいらっしゃいますが、違います。離別・養子縁組等がすべて含まれた、あなたの家系が他の家系とどうつながっているかを示すものです。7世代ほど遡れるなら、100家くらい登場します。これらすべてを反映したもののことを、家系図と呼びます。
実際に、あなたが戸籍をまじまじと見ることが大切です。事実だけを見て家系図をおこしていくことが、大切です。その上で、読めない字に四苦八苦したり、市役所の対応の地域差に驚きながら「なぜこんなに養子縁組が多いの?」「どうしてこの人は亡くなった兄弟の未亡人と結婚したの?」といった疑問も出てくるでしょう。
家系図を「あくまでもつくりおわって」こうした疑問に答える知識を得て、何らかの安定感を得たいなら、小林秀雄賞も受賞した『生きて帰ってきた男』(小熊英二著、岩波新書、2015)がおすすめです。特に、東京/北海道/早実/陸軍/シベリア抑留/新潟/岡山/京都などの言葉にひっかかる方は、手に取りましょう。
例えば、家の存続のために、亡くなった兄弟の未亡人と結婚することは、新潟の新発田の辺りでは「なおる」と呼んたという指摘があったり、1944年には燃料不足で銭湯も湯を替えられず、夜にはお湯が悪臭を放っていたといった指摘は、戸籍をよんでいる自分の視点がいかに限定されたものかという、気づきを与えてくれるでしょう。戦前と戦後のあらゆる差を、自覚できる瞬間であり、親や祖父母をみる目が、文字通り変わるでしょう。
そのほかにも、源泉徴収がナチス・ドイツを見習ったものであることや、ガソリン不足ゆえ街頭でタクシーを見かけなくなって戦争を実感したことや、南方で戦死した夫の遺骨入り木箱には実際は砂が入っていたりことなど、庶民を起点として、社会制度や産業構造の変化が数字でも補足されてあるため、とても読みやすく、膨大な情報量なのに、頭の中が常にクリアなまま、読み進めていけます。
その上で、わたしは221ページの以下の言葉が心に残りました。
「頭で考えて割り切る人は、そういう考えになるのだろう。しかし現実の世の中の問題は、二者択一ではない。そんな考え方は、現実の社会から遠い人間の発想だ」
描かれた戦争でも、描かれた戦前でもなく、生きられた戦争や生きられた戦前戦後を、肌で感じられながら、より自分のうしろからすべてが続いていることを、実感できるでしょう。実際の戦前・戦後はきっとあなたの想像とは、絶望と希望のあり方が違って、まろやかに感じるだろうと思います。
初出:2016年9月30日