柔らかなセリを買えて、うれしいです。
昨年観た映画の中でいちばんよかった、映画『舟を編む』が、日本アカデミー賞の最優秀作品賞を受賞していました。ああいうテイストの作品がきちんと最優秀作品賞を受賞している、日本映画界の在り様に、ホッとしました。そして、先日実家でたまたま録画されていた『東京物語』も、優秀作品賞にエントリーしていました。
『東京物語』は、小津安二郎監督の同名の作品のリメイクであったので、気になりつつも、上映期間中に映画館に足を運べなかったんです。東京の暖かさにホッとしながら見ていたら、あたたかくも清涼な日本茶で喉がさっぱりするような感覚が残りました。小津監督へのオマージュでありながらも、ちゃんと山田監督の作品で「思いがけず、いいものを頂いた」感じで、しばらく胸がすぅっとしていました。
優秀作品賞にエントリーした作品では、『そして父になる』も、映画館で鑑賞しました。リリーフランキーさんの演技がいいなと思ったんです。深くてやさしくて甘みもあるけど、かなしみを知った厳しさもあったからです。そしたら、彼は、最優秀助演男優賞をとられたんですね。受賞コメントに、なんだか泣きました。
「いやほんと、いやさっき樹木さんがおっしゃっていたみたいに。ちょっとわたしの得体のしれない立場で、こういう華やかな席に呼んで頂いて。またこういう賞を頂いて。ちょっともう、何を言っていいのか。
なんか子供の頃から、何か表現をしたいなと思いながらも、色んなものに手を染めてきましたけども、ぼくの尊敬する画家のおおたけしんどうさんという方が、ぼくに言ってくれたのは『先のことなんか考えても、しょうがない。だってその通りになったことがないんだから。だから、先のことなんか考えないで、今日絵をおれは描くんだ』と仰っていて。
なのでぼくも、なにかしら30年くらい、色々なことをしこしこ毎日やって、失ったこともたくさんありましたけれども、今ほんとうに、全然10年前30年前、ほんと去年の自分でも想像できないこういうふうな賞を頂いて、なんかほんとに、夢あるねと思いました。ほんとうにありがとうございました。誇りに思います。」
リリーさんの「夢あるね」は、夢という言葉のただしい使い方に感じたんです。夢は追いかけるものというより、信頼と奇跡が混ざったちょっとした魔法みたいな、一瞬たしかに舞い降りるものだと、わたしは思っているんです。グッときました。
飄々としながらも淡々とした、時に粛々ともみえる努力が一番下に敷きつめられていて、生かされている感謝ももちろんベースの奥の奥にあって、その上でのゆるしや涙やたくさんあった上での「夢あるね」なんですよね。この「夢あるね」が道半ばにある進み方は「今のところ、合ってる」と言われている感じがするんです。
初出:: 2014年3月12日