「ゲームは30分だけ」と言われたら、大人の目を盗んで35分できたとき、その子は「やった!」と思うと思います。「使っていいのは3万円」と言われれば、二番目に欲しかったものを買うなどして、本当に欲しいもののために、その3万をとっておく発想は出づらいでしょう。
わたしたちは制限をかけると、本当に欲しいものを見失いやすくなります。他にも、例えば「あの人を好きになっちゃダメ」と思うほど、あの人を好きになる確率は高まります。本当に好きな人が別にいたとしても、あの人をそもそも好きでなかったとしてもです。
逆手にとって「(嫌な)家計簿をつける作業は、1日に5分しかしちゃダメ」「眠いし疲れてるし、(嫌な)勉強は今日は10分しかしちゃダメ」と自分に言うと「やーった。10分しちゃったもんね」のようになり、作業が進むことがあります。
どーんと何十万も手にする方が「貯金しとこう」という気持ちになるのも、同じ仕組みです。普段気にしているラインをうんと超えた額なら、それは制限がないような気持ちにさせてくれるから、逆に本当に欲しいものを見据えられるようになります。一億あったら?と真面目に試算してみると、今欲しいと思っているものの大半は、欲しくなくなる方が多いです。
だから、お客さんに「これを入れ込むのは、ちょっと難しいんですけど」なんて制限をかけると、お客さんは「これ」が本当に欲しいものだったかより、その制限を超えようという動きをします。つまり「そこをなんとか、お願いしますよ!」と、言い始めます。
だから、お客さんにやたらと「そこをなんとか」とごり押しされがちなら、お客さんの前では「ここからここまで請け負っています」と範囲を見せることです。お客さんにもご自身にも、制限ではなく範囲の方をみせると、みなさんの胃もキリキリ痛まなくてすむでしょう。お客さんも本当に欲しいものを見失い、時間を無駄にしなくなりますから、一石二鳥です。
初出:2019年3月30日