「いつもなにかをしながら、なにかをしてしまう」

みなさん、眠る前に、神経を休めていますか?「幾つものことを、同時にできた方がいい」と、思い込んでいませんか?そう思い込んでいる人に会うと、スペインに滞在していた時を、思い出します。あの時、わたしは、ご飯を食べながら話すことが、できなくなってしまったのでした。一度にひとつのことしか、できなくなったのでした。

ホームステイどころか旅行でも、英語が母国語の国に、行ったことがありませんでした。英語だけ使う環境で、アジア人はわたし1人の中、いきなり出会った人達と、寝食を共にする生活に入ります。英語力に限りがあるわたしは、18ヶ国もの「訛」のある英語にまみれ、初日の午後三時、頭が停止しました。

目の前にあるひとつのことに集中することしか、できないのです。みんなは余裕です。英語も流暢です。1人を除き、全員、母国語で話せる相手もいました。わからない英語も、ヨーロッパ圏の言葉が母国語なら、ある程度予測できて、話せなくとも、聞いて理解できたりします。食生活や文化や風習も似ていて、大きなチキンや、甘すぎるスィーツに歓声をあげられます。

そして、わたしはご飯を食べながら、英語で話せなくなりました。その時、ブラジル人Sが、わたしの顔を覗き込みました。母国語を話す相手がいなかった、もう1人です。多様な経験を通し、優しい目を手に入れた彼は「悲しそうだね」と、言いました。

「みんなと仲良くなれる(ほぼ唯一の)時間なのに、わたしは、食べながら話せない。めいっぱいで、目の前のこと、ただひとつにしか、エネルギーを注げない。」わたしは、言いました。そしたら、彼は、こう言ったんです。

「うらやましいよ。きみは、僕の先生だ。ぼくは、いつもなにかをしながら、なにかをしてしまう。瞑想の先生に、言われているんだ。”同時にいくつものことをするのは、止めなさい。一度にひとつのことだけ、しなさい。” 妻の話をききながら仕事のことを考える。取締役会で伝えることを考えながら、ご飯を食べる。それで妻は去った。今、真剣にトレーニング中なんだ。本当に、心底、きみがうらやましい。」

その時、わたしは初めて「いくつものことを、同時にできることが、一度にひとつに集中することより、優れているわけではない」と、心底わかったんです。

それまでも、不器用だったわたしは、基本的にのんびりで、あれもこれも同時にやるのは、楽しくないけれど、「スピードは、速い方がいい」「同時に、いくつもできる方がいい」と受け取っていました。前者には、だいぶ早く気づけたものの、後者は、のんびり屋のわたしらしく、たっぷり時間をつかって、気づけました。

「一度に、目の前のことに、ひとつだけ、集中できる」、この一途さは、「今を生きる」力へと変えていけます。

初出:2012年4月27日